邦訳「仏説大乗荘厳宝王経」第10課

邦訳「仏説大乗荘厳宝王経」はじめに

邦訳「仏説大乗荘厳宝王経」第9課

 

ケンポ・ソダジによる解説:『仏説大乗荘厳宝王経』第10課

その時、世尊は微笑みながら告げました:

「善男子、観自在菩薩摩訶薩は、実際には時間に関係なく、どの時でも来ることができます。善男子、その菩薩の体には『灑甘露』と呼ばれる毛孔があり、その毛孔の中には、無数の天人たちが住んでいます。その中には、初地、二地を証得した者から、十地の菩薩摩訶薩に至るまでの者がいます。除蓋障、その灑甘露毛孔の中には、六十の金銀の宝山があり、それぞれの山は高さ六万の由旬(※55)、九万九千の峰があり、天の妙金で装飾されています。そこには一生補処菩薩(或いは初発心の菩薩=チベット語訳)が住んでいます。
また、その毛孔の中には、無数の宮殿があり、天の摩尼宝で周遍に装飾されています。これを見る者の心は満足し、様々な真珠の飾りが施されています。各宮殿には菩薩がいて、微妙な法を説き、その宮殿からそれぞれが歩行しています。歩行する場所には、七十七の池があり、八功徳水が満ちています。そこには様々な花が咲いています。たとえば、青い蓮華(※29)、紅い蓮華(※54)、白い睡蓮(※35)、白い蓮華(※30)、ソーガンディカ華(※36)、マンダラ華(※31)、大マンダラ華(※32)が充満しています。
その歩行地には、適意の劫樹(※57)があり、天の金銀で葉が装飾され、その上には天の冠、耳飾り(※59)、宝物、飾りなどが悬っています。これらの菩薩たちは歩行を終えた後、夜の分に様々な大乗の法を思い起こし、寂滅の地、地獄、鬼趣、畜生などを思い巡らせ、慈心三摩地に入ります。」
「除蓋障よ、彼の毛孔の中には、このような菩薩が現れています。また、金剛面と呼ばれる毛孔には、無数の緊那羅(※24)(天人たち)が現れており、種々の華鬘や飾りで身を装飾し、妙な香油で体を塗りたくっています。それを見る者たちは喜びます。彼らは常に仏、法、僧を念じ、壊れない信仰を持ち、法に安住し、慈悲を実践しています。彼らは寂滅を思い、輪廻から遠く離れています。
善男子、その緊那羅たちは心から愛着を抱き、その毛孔には無数の山々があり、その中には金剛の宝窟、金の宝窟、銀の宝窟、水晶(※79)の宝窟、蓮華色の宝窟、青色の宝窟、そして七宝を具えた宝窟があります(チベット版には「窟」という訳がなく「山」となっているが解釈の違いによるもの)。善男子、その毛孔にはこのような変化が現れています。
また、その毛孔の中には無数の劫樹があり、無数の栴檀大樹や微妙な香樹があります。無数の浴池、百千の天宮の宝殿、水晶(※79)で装飾された巧妙で清浄な宝殿が現れています。その中で緊那羅たちは静かに過ごし、布施波羅蜜多の法や持戒、忍辱、精進、静慮、智慧波羅蜜多の法を説きます。それらの六波羅蜜多を説いた後、彼らは経行し、その経行道には黄金や白銀で作られた経行道があり、その周りには劫樹(※57)や天の衣、宝冠、耳飾り、宝鈴、飾りなどが装飾されています。
また、楼閣や緊那羅たちは経行の際に、沈淪生苦、老苦、病苦、死苦、貧窮困苦、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、または針刺地獄、黒縄地獄、酸味地獄、極熱地獄、火坑地獄、または餓鬼趣など、多くの苦しみを思い巡らせます。緊那羅(※24)たちは深い法を思索し、円寂の真界を考え、常に観自在菩薩摩訶薩の名号を念じます。その称念によって、彼らは必要な資具をすべて得ることができます。」
「善男子、観自在菩薩摩訶薩の名号すら得ることは難しいのです。なぜなら、彼はすべての有情を大いなる父母のように思い、すべての恐怖に苦しむ有情に無畏を施し、すべての有情を大善友として開導するからです。このように、善男子、観自在菩薩摩訶薩は、六字大明陀羅尼を持ち、それもまた難得に出会うものです。もし有人がその名(六字大明呪:ॐ मणिपद्मे हूं)を称え続けるならば、その者は彼の毛孔の中に生まれ、沈没することはなく、一つの毛孔から出てまた別の毛孔に入ることができ、そこに住むことになり、最終的には円寂の地を証得することができます。」
その時、除蓋障菩薩は世尊に申し上げました:
「世尊、今この六字の大明陀羅尼は、どこから得られるものですか?」
仏は言いました:
「善男子、この六字の大明陀羅尼は非常に珍しく、仏においてもその由来を知ることはできません。ましてや、菩薩の立場でどのようにして得られるかを知ることができるでしょうか。」
除蓋障菩薩が言いました:
「このような陀羅尼を、仏である如来が正等覚においても、どのようにして知らないのでしょうか?」
仏は言いました:
「善男子、この六字大明陀羅尼は観自在菩薩摩訶薩の微妙な本心です。もしこの微妙な本心を知ることができれば、解脱を知ることになります。」
その時、除蓋障菩薩は世尊に尋ねました:
「世尊、諸有情の中で、この六字大明陀羅尼を知ることができる者はいるのでしょうか?」
仏は言われました:
「善男子、この六字大明陀羅尼を知る者はいません。多くの如来でさえ、この六字大明陀羅尼の本心を知ることは難しいのです。菩薩がどのようにしてこの観自在菩薩の微妙な本心を知ることができるでしょうか?私が他の国土に行ったとしても、この六字大明陀羅尼の本心を知る者は存在しません。もし誰かがこの六字大明陀羅尼を常に受持しているなら、その持誦のときには、99のガンジス河の砂の数ほどの如来が集まります。さらに微塵の数ほどの菩薩も集まり、32の天の王子たちも集まります。また、四大天王が四方を守ります。さらに、娑伽羅龍王(※25)、阿那婆達多龍王(※27)、徳叉迦龍王(※26)、和修吉龍王(※28)など、無数の龍王たちが集まり、その人を守ります。また、地中の薬叉や虚空の神々もその人を守ります。」
「善男子、観自在菩薩の身の毛孔の中には、無数の如来がいます。その如来たちは、持誦する人を称賛して言います:
『善哉!善哉!善男子よ、あなたはこの如意摩尼の宝を得ることができました。あなたの七代の種族は皆、解脱を得るでしょう。』
善男子、そのような持誦者は、腹の中のすべての虫(お腹の中に住んでいる虫)が退転しない菩薩の位に達するでしょう。さらに、もし誰かがこの六字大明陀羅尼を体に、または首に持つならば、善男子、その持つ者を見ることができるならば、それは金剛の身を見ているのと同じであり、また、舍利弗の塔を見るのと同じであり、また、如来を見ているのと同じであり、また、倶胝の智慧を持つ者を見るのと同じです。もし善男子や善女人がこの六字大明陀羅尼を念じるならば、その人は無尽の弁才を得、清浄な智慧の集まりを得、また大慈悲を得るでしょう。このような人は、日々、六波羅蜜多の円満な功徳を具え、天の転輪の灌頂を受けるでしょう。その人が口から発する息が他者に触れると、触れた人は慈悲の心を起こし、すべての怒りと毒を離れ、退転しない菩薩の位に達し、速やかに阿耨多羅三藐三菩提を証得するでしょう。また、この持誦者が手で他者に触れると、触れられた人は速やかに菩薩の位に達します。もしこの持誦者が男子や女人、童男童女、または異類の有情を見れば、見ることができる者は皆、速やかに菩薩の位に達します。このような人は、永遠に生老病死の苦しみや愛別離の苦しみを受けることがなく、不可思議な相応の念誦を得るでしょう。今この六字大明陀羅尼については、このように説かれています。」

《以下漢文》

爾時世尊微笑告言、善男子觀自在菩薩摩訶薩、彼於無時而是來時、善男子彼菩薩身、而有毛孔名灑甘露、於是毛孔之中、有無數百千萬倶胝那庾多天人、止住其中、有證初地二地、乃至有證十地菩薩摩訶薩位者、除蓋障彼灑甘露毛孔之中、而有六十金銀寶山、其一一山高六萬踰繕那、有九萬九千峯、以天妙金寶周遍莊嚴、一生補處菩薩於彼而住。復有無數百千萬倶胝那庾多彦達嚩衆、於彼毛孔而於恒時奏諸音樂。除蓋障、彼灑甘露毛孔之中、又有無數百千萬倶胝那庾多宮殿、以天摩尼妙寶周遍莊嚴、見者其意適然、復有種種眞珠瓔珞而校飾之。於彼宮殿各有菩薩説微妙法、出是宮殿各各經行。於經行處而有七十七池、八功徳水盈滿其中、有種種華、所謂嗢鉢羅華、鉢訥摩華、矩母那華、奔拏利迦華、噪彦馱迦華、曼那囉華、摩賀曼那囉華、充滿其中。彼經行地復有適意劫樹、以天金銀而爲其葉莊嚴、於上懸諸天冠、珥璫、珍寶、瓔珞種種莊嚴。彼諸菩薩而經行已、於夜分時憶念種種大乘之法、思惟寂滅之地、思惟地獄、鬼趣、傍生、作如是思惟已、而入慈心三摩地。
”除蓋障、於彼毛孔、如是菩薩出現其中。復有毛孔名金剛面、而於其中有無數百千萬緊那囉衆、種種華鬘瓔珞遍身莊嚴、以妙塗香用塗其體、見者歡喜。而彼恒時念佛法僧、得不壞信住法忍慈、思惟寂滅遠離輪迴。如是、如是、善男子、彼緊那囉衆心生愛樂、彼之毛孔有無數山、而於其中有金剛寶窟、金寶窟、銀寶窟、玻胝迦寶窟、蓮華色寶窟、青色寶窟、復有具足七寶窟。如是、善男子、於彼毛孔有斯變現。而於是中又有無數劫樹、無數栴檀大樹微妙香樹、無數浴池、百千萬天宮寶殿、玻胝迦莊嚴巧妙清淨適意寶殿、於彼出現、如是宮殿緊那囉衆止息其中、既止息已説微妙法、所謂布施波羅蜜多法、及持戒、忍辱、精進、靜慮、智慧波羅蜜多法;説是六波羅蜜多已、各各經行、而於是處有黄金經行道、白銀經行道。於是周匝而有劫樹、金銀爲葉、上有種種天衣、寶冠、珥璫、寶鈴、瓔珞、如是莊嚴彼經行處。又有樓閣、緊那囉於是經行、思惟沈淪生苦、老苦、病苦、死苦、貧窮困苦、愛別離苦、寃憎會苦、求不得苦、或墮針刺地獄、黒繩地獄、喝醯大地獄、極熱大地獄、火坑地獄、或墮餓鬼趣、如是有情受大苦惱、彼緊那囉作是思惟。如是、善男子、彼緊那囉、樂甚深法思惟圓寂眞界、復於恒時念觀自在菩薩摩訶薩名號、由是稱念、而於是時得諸資具悉皆豐足。
”善男子、觀自在菩薩摩訶薩、乃至名號亦難得値、何以故彼與一切有情如大父母、一切恐怖有情施之無畏、開導一切有情爲大善友。如是、善男子、彼觀自在菩薩摩訶薩、有六字大明陀羅尼難得値遇。若有人能稱念其名、當得生彼毛孔之中不受沈淪、出一毛孔而復往詣入一毛孔、於彼而住乃至當證圓寂之地。”
時、除蓋障菩薩白世尊言:
”世尊今此六字大明陀羅尼、爲從何處而得耶?”
佛告:
”善男子、此六字大明陀羅尼難得値遇、至於如來而亦不知所得之處、因位菩薩云何而能知得處耶?”
除蓋障菩薩白世尊言:
”如是陀羅尼、今佛如來應正等覺、云何而不知耶?”
佛告:
”善男子、此六字大明陀羅尼、是觀自在菩薩摩訶薩微妙本心。若有知是微妙本心即知解脱。”
時、除蓋障菩薩白世尊言:
”世尊、諸有情中、有能知是六字大明陀羅尼者不。”
佛言:
”無有知者、善男子此六字大明陀羅尼、無量相應如來而尚難知、菩薩云何而得知此觀自在菩薩微妙本心處耶?我往他方國土、無有知是六字大明陀羅尼處者。若有人能而常受持此六字大明陀羅尼者、於是持誦之時、有九十九殑伽河沙數如來集會、復有如微塵數菩薩集會、復有三十二天天子衆亦皆集會、復有四大天王、而於四方爲其衞護、復有娑誐囉龍王、無熱惱龍王、得叉迦龍王、嚩蘇枳龍王、如是無數百千萬倶胝那庾多龍王而來衞護是人、復有地中藥叉虚空神等而亦衞護是人。
”善男子、觀自在菩薩、身毛孔中倶胝數如來、止息已讃歎是人言:’善哉!善哉!善男子、汝能得是如意摩尼之寶、汝七代種族皆當得其解脱。’善男子、彼持明人、於其腹中所有諸蟲、當得不退轉菩薩之位。若復有人以此六字大明陀羅尼、身中項上戴持者、善男子、若有得見是戴持之人、則同見於金剛之身、又如見於舍利窣堵波、又如見於如來、又如見於具一倶胝智慧者。若有善男子、善女人、而能依法念此六字大明陀羅尼、是人而得無盡辯才、得清淨智聚、得大慈悲。如是之人、日日、得具六波羅蜜多圓滿功徳、是人得天轉輪灌頂。是人於其口中所出之氣觸他人身、所觸之人發起慈心、離諸瞋毒、當得不退轉菩薩、速疾證得阿耨多羅三藐三菩提。若此戴持之人、以手觸於餘人之身、蒙所觸者是人速得菩薩之位。若是戴持之人、見其男子女人、童男童女、乃至異類諸有情身、如是得所見者、悉皆速得菩薩之位。如是之人、而永不受生老病死苦、愛別離苦、而得不可思議相應念誦。今此六字大明陀羅尼、作如是説。”

佛説大乘莊嚴寶王經卷第三

※54 鉢訥摩華=紅い蓮華(梵: पद्म[ padma])。「パドマ」の華のこと
※36 噪彦馱迦華=ソーガンディカ華(梵:सौगन्धिक[saugandhika])。香りの良い華らしく儀式や瞑想のシンボルとして使用されるそうです
※79 玻胝迦=水晶(梵:स्फटिक[sphaṭika])。ガラスなど
※25 娑誐囉=娑伽羅(梵:सागर[Sāgara])。八大龍王の一、漢音写の一般的な方を採用した
※26 得叉迦=徳叉迦(梵:तक्षक[Takṣaka])。八大龍王の一、漢音写の一般的な方を採用した
※28 嚩蘇枳=和修吉(梵:वासुकि[Vāsuki])。八大龍王の一、漢音写の一般的な方を採用した

《第10課おわり》

邦訳「仏説大乗荘厳宝王経」第11課